第1話:「はじめての馬券は、メダルだった」

──ゲーセンの“競馬”で人生が変わるなんて、あの頃は思ってもいなかった。
2007年。
あの頃の僕にとって「競馬」とは、ゲームセンターにあるただのメダルゲームだった。
当時、毎週土曜日になると、家から車で10分ほどのところにある大型ゲームセンターへ通っていた。
一週間分のストレスを晴らす場所でもあり、ひそかな研究所でもあった。
僕がハマっていたのは「ターフワイルド3」。
メダルを使って馬券を買い、競争馬を育てたり、実際の名前のついた重賞レースで当たりを狙うという競馬シミュレーション型の大型アーケードゲームだ。
音、実況、ゲートの開くタイミング――そこには、リアル競馬に似た臨場感があり、ただのゲーム以上の熱があった。
「ゲームだから勝てる。だって、ロジックがあるから。」
僕はこのゲームを、攻略の対象として見ていた。
当時の僕は、
・荒れそうなレースは穴馬に全力メダル
・堅そうなレースは人気サイドに分厚く張る
・展開パターンの検証、馬の傾向、機械のクセの見極め……
そんなことをノートにメモして、1日中「試行と検証」を繰り返していた。
気づけば常に2万枚以上のメダルを持っていたし、
店員に「またジャックポット出したの?」と笑われるくらいには、ゲーセン競馬の“玄人”になっていた。
「このゲーム、人生で一番やり込んでるかもな」
そんなある日。
僕がいつものように画面を睨みつけて予想を立てていたとき、後ろから声をかけられた。
「お前、さすがにその集中力ヤバいって(笑)
てかさ、それだけガチでやるなら…リアル競馬、行こうぜ?」
幼なじみのテツヤだった。
僕が幼稚園のころから一緒に遊んでいた、ゲーム仲間であり、人生を共にする存在だった。
最初は冗談かと思った。
リアル競馬なんて、自分とは縁のない世界だと思ってたから。
新聞片手におじさんたちが叫ぶ、そんなイメージしかなかったから。
でも、その一言に――なぜか、ビリッと電流が走った。
「え、リアルでもこの分析、通用するのか?」
「メダルじゃなく、本物の馬券で…勝てるのか?」
胸が高鳴った。
あの瞬間を、僕は今でもはっきり覚えている。
人生の歯車が、“ガチャリ”と音を立てて動き始めた感覚だった。
あの一言がなければ、今こうして競馬予想をしている僕はいない。
あの日、ゲームの中の馬が走っていた画面の向こうに、
本当の競馬の世界が広がっているとは思いもしなかった。
でも僕はその瞬間、
メダルじゃない「本物の馬券」を買ってみたくなった。
そして――気づけば、
本当にその世界に飛び込んでしまっていたのだった。
▶️【第2話へ続く】
「リアル競馬と出会った日」
──最初の馬券と、最初の大敗。そして僕の競馬人生のはじまり。